まずはステーブルコインの基本的な知識から解説していきます。
海外旅行で気分よくクレジットカードを利用したら、為替の変動により思わぬ損失を出してしまった。以前はこんな話もよく聞きましたが、決済や送金などの取引や預金では、通貨の価値が変わらないということは非常に大切なことです。
ビットコインの本来の目的とは、海外送金を安く、素早く、便利に行いたいというものでしたが、ビットコインはじめとして、仮想通貨相場の高すぎるボラティリティは、その利用用途である決済や送金に関しては、実用性がなくなったとみなされたのです。
誰も来月価格が2倍になっている通貨で決済したいとか思いませんし、また、来月には価格が半分の価値になる通貨で預金したいと思わないでしょう。
国や政府という担保を有する法定通貨に対して、利便性の高さが期待されてオンライン上に華々しく登場した仮想通貨でしたが、担保がないということは、価格が乱高下する大きな要因ともなってしまったのです。
そうなると、今度は法定通貨レベルに価格の安定した利便性の高い仮想通貨というものが求められるようになり、ここに登場するのがステーブルコイン(Stable coin)となります。
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それではステーブルコインが持つ特徴を幾つかのポイントに分けて解説していきます。
ステーブルコイン最大の特徴は、誕生した背景にあるように価格の安定性となります。次世代テクノロジーとして期待される仮想通貨ですが、その実用性の障害となっているのが価格の不安定性です。
価格が安定したステーブルコインなら、来月の決済や預金にも安心して利用できますし、そのうえで次世代テクノロジーを享受することもできるのです。
このような仮想通貨であれば、仮想通貨経済圏を拡大させていくことも可能ですし、ステーブルコインを上場させて利用する取引所には、ステーブルコインに預金しておこうというユーザーも多く集まってくるというメリットもあります。
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銀行振込も回数が多いと振込料金は馬鹿になりませんが、これが海外送金ともなると1回でも大きな金額になったりします。ということで、ビットコインなどの仮想通貨が出てきたわけですが、実際にはボラティリティが高いため利用しにくい。
つまり、ボラティリティが極めて低い仮想通貨であるステーブルコインを利用することでこれらの問題解決が可能となります。例えば、安定通貨として人気の高い日本円ベースのステーブルコインが一般化すれば、振込や預金のために銀行口座を開設する必要もなくなるでしょう。
ステーブルコインが本格的に実用化されるのは2020年以降といわれていますが、そうなると銀行は大変なことになってしまいます。
実は、このような銀行の屋台骨を揺らがすようなテクノロジーが仮想通貨の世界では日々開発されているわけで、三菱東京UFJ銀行やSBIネット銀行などがリップル(XRP)の実用化を進めようとしている構図が見えてみます。
いずれにせよ、数年後には銀行振込や決済に仮想通貨が利用されるようになるのは間違いのないところでしょう。
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ステーブルコインというと、もっと有名で一般的なのはテザー社の発行するUSDTといってよいでしょう。仮想通貨投資家なら、ビットコイン通貨ペアなどでBTC/USDTというペアをみたことがあるでしょうが、このUSDTこそがステーブルコインです。
USDTは最も早く発行されたドルペッグのステーブルコインで、Binance、OKEx、BitForex、Huobi、Bitfinex、Kraken、Poloniexなどの取引所などで上場するなど圧倒的な人気がありました。
2018年6月には約275億円が発行されたことが判明していますが、実はテザー社はペッグされているはずのドル資産を保有していないのではというスキャンダルが発生することになり、信頼性に関しては疑惑が続く状況が続いています。
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テザー以外にも有力なドルペッグのステーブルコインが次々に誕生しており、どのステーブルコインが信頼性を勝ち取り、次のメジャー通貨に就くことになるかも注目のポイントです。
※ドルペッグのペッグとは、「釘で固定する」という意味です。
ここからはステーブルコインの種類について解説していきます。
ステーブルコインの第1世代ともいわれるのが法定通貨担保型のもので、法定通貨には、米ドルや日本円のいわゆる法定通貨以外にも、金や原油などを担保にするものもあります。
例えば、前述のUSDTのように米ドルを担保としている場合には、価格は米ドル(USD)の価格と連動するためドルペッグ制とも呼ばれます。あまり知られていませんが、中国人民元や香港ドルなどは実はドルペッグ制を採用しています。
法定通貨担保型は、安定性という面では非常に魅力的ですが、規制という問題は常につきまとうことになります。例えば、日本円ペッグのステーブルコインがいかに安定していても、マネーロンダリングに利用されるようなことになると、金融庁からの規制は避けられなくなります。
また、テザー社のようなスキャンダルに見舞われる可能性もあります。そういう意味では、NYDFS(ニューヨーク州金融サービス局)が承認したGemini dollarやPaxos Standardなどの信用度の高いものが人気化することになりそうです。
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・USDT(テザー)
ブロックチェーンにはOMNIを採用、最初の米ドルペッグのステーブルコインで本年6月には275億円分のUSDTが発行されたことが判明しています。
しかし、USDTは実際にはペッグされたドルを所有していないのではないかとのスキャンダルが発生し、信頼性が大きく損なわれた状態となっています。
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・TUSD(トゥルーユーエスディー)
イーサリアムのERC20に準拠しており、TrustTokenによって発行されているステーブルコインです。
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・LCNEM(エルシーネム)
NEMウォレットを開発しているLCNEMが発行する世界初の日本円ペッグのステーブルコインです。
関連記事: 株式会社LCNEMが日本円ペッグのステーブルコインの販売を開始!ネム(NEM)ブロックチェーンを活用
・DGX
DigixDAOが発行する金(ゴールド)を担保としたステーブルコインで、Digixのブロックチェーン上に仮想通貨と実物資産である金の取引を証明・記録します。
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仮想通貨担保型とは、その名の通り法定通貨や金などではなく仮想通貨を担保とするステーブルコインです。このタイプは第2世代のステーブルコインとも呼ばれますが、第1世代のように国や政府の規制による閉鎖リスクはありません。
価格の安定性が求められるステーブルコインの担保が仮想通貨というのは矛盾していますが、その影響を受けないようにスマートコントラクトのアルゴリズムが設計されています。
とは言え、アルゴリズムの設計がうまく機能するのかどうかというと、過去の例からは必ずしもうまく機能していないのが実情です。
・DAI(ダイ)
MakerDAOが発行しているDAIは、イーサリアム(ETH)を担保にしたステーブルコインです。仮想通貨を担保としますので、中央集権の影響を受けず、発行元の信用が不要です。
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・Havven(Hav)
Havvenは二重トークンを担保にしたステーブルコインです。仮想通貨担保型と無担保型を組み合わせたようなモデルが採用されています。
無担保型とは、第3世代のステーブルコインとなりますが、スマートコントラクトが中央銀行のような役割を担い、需給を調整することで価格を安定化させようというアルゴリズムを駆使した、まさに暗号通貨らしいステーブルコインです。
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無担保型のステーブルコインが現在の法定通貨にとって代わると期待する人も多くいますが、未だ検証が行われておらず、今後の動向に注目というところです。
・Basis(ベーシス)
Basisは、アルゴリズムを採用した中央銀行による安定したステーブルコインです。
・Saga(サーガ)
Sagaは、ノーベル賞経済学者によって開発されたステーブルコインで、2019年1~3月に発行予定の注目の無担保型コインです。
・KUSD
KUSDはKowalaによって開発されたステーブルコインで、非同期コンセンサスプロトコルであるTendermintから派生したコンセンサスを用いることでビットコインの約1,000倍のトランザクション処理能力を持っています。
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・株式会社LCNEMが日本円ペッグのステーブルコインの販売を開始
株式会社LCNEMは、最も安定しているといわれる法定通貨である日本円ペッグのステーブルコインの販売を開始しました。社名からも分かるようにNEMのブロックチェーンを活用します。
関連記事: 株式会社LCNEMが日本円ペッグのステーブルコインの販売を開始!ネム(NEM)ブロックチェーンを活用
・ニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)がGemini dollarを承認
ウィンクルボス兄弟の米ドルに裏付けられたステーブルコイン「Gemini dollar」がニューヨーク金融サービス局(NYDFS)に承認されました。
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・サークル社が米ドル建てのステーブルコインUSDCをリリース
ゴールドマンサックスが支援する暗号通貨取引事業者であるサークル社は、米ドルペッグのステーブルコインUSDCをリリースしました。
USDCトークンは、サークル社の仮想通貨取引所「Poloniex」と取引アプリ「サークルトレード」で使用できます。ウォレット、取引所、ソフトウェアアプリ等の20社以上の企業が、ECR20規格を通してUSDCトークンをサポートします。
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・GMO、2019年に向けてステーブルコイン「GMO Japanese YEN」を発行予定
GMOインターネットは、10月9日、日本円にペッグしたステーブルコイン「GMO Japanese YEN(GJY)」を2019年めどに、アジア地域で本格的に発行する準備を開始したと発表しました。
これで同社は、交換(GMOコイン)、マイニング(GMO miner)、決済の仮想通貨に関連する領域に進出することになります。
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・テザープレミアムが話題に
テザー社のスキャンダルにより、USDTの価値が基準値1ドルを大幅に下回り市場は揺れました。これにより、USDTを利用する場合にはテザープレミアムが発生しており、カオス通貨取引所は数種類のステーブルコインを追加しています。
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・テザー社が5億USDTをバーンしたと発表
テザースキャンダル(USDTが米ドル準備金に裏付けられていないというニュース)により、USDTの価値が下落している中、テザー社は5億USDTをバーンしたと発表しました。
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・Binanceコイン(BNB)がeToroに上場
10月29日、世界的なオンライン資産取引サービスeToro(イートロ)は、投資プラットフォームとしては最初にBinanceコイン(BNB)を上場させることを発表しました。
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仮想通貨の問題点をカバーするステーブルコインが俄かに人気化していますが、そんな中、金融庁が「法定通貨とペッグすることで価格を安定させた仮想通貨(ステーブルコイン)は、改正資金決済法に基づけば、原則として仮想通貨のカテゴリーに分類されない」との見解を示したと、仮想通貨専門ニュースサイトBitcoin.comが29日付けで報じています。
仮想通貨の法律である改正資金決済法によれば、仮想通貨とは「物品を購入し、もしくは借り受け、または役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定のものに対して使用することができ、かつ、不特定のものを相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」と定めています。
この中で、財産的価値とは、電子機器その他のものに電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨資産建てを除くとあり、つまり、日本及び海外の法定通貨建て資産を除くと定義されているのです。
仮想通貨ですから、マネーロンダリングなどに利用される場合にはまた別の話になりますが、法律上は仮想通貨としてみなされない可能性もあるわけです。
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一時期のあまりに激しいボラティリティは、仮想通貨が決済として利用されるのに大きな障害となり、中央集権を持たない仮想通貨でありながら価格が安定したコインが求められ、ステーブルコインが登場することになります。
現状、次々にステーブルコインが発行されており、第3世代の無担保型のベーシス(Basis)は、アンドリーセン・ホロウィッツなどの超有名VC(ベンチャーキャピタル)から140億円もの資金調達に成功しています。
あたかもビットコインやイーサリアムなどの既存の仮想通貨はお払い箱にでもなるような論調もありますが、果たして本当なのでしょうか?今後のステーブルコイン関連のニュースに注目したいところです。
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20代男性。都内名門高校卒業後、ベンチャー企業を経てコイン東京へ。二次元好きのセミプロゲーマー、好きが嵩じて仮想通貨やDappsゲーム、ブロックチェーン技術の世界にハマる。ゲーム知見と理数的素養から、最新の技術もカバーしつつ、プロジェクトの情報収集や分析を最も得意とする。