エリオット波動とは、ウォール街株式アナリストのR・N・Elliotが、1900年代初頭に提唱していたテクニカル分析です。
エリオットは、株式相場を自然界と同じように、フィボナッチ数列や黄金比率に従っており、株式相場は5つの上昇波と3つの下降波で1つの周期が形成されると考えました。
エリオット波動のポイントは、上昇5波/下降3波で一つの周期を形成するというもので、上昇波のことを推進波、下降波のことを修正波と呼びます。
推進波(上昇波)は、1~5波で形成され、1波が上昇・2波が下落(調整)・3波で上昇・4波で下落(調整)・5波で上昇(高値を形成)となり、1つの相場の周期となります。
また、上手のように1~5それぞれの波も5波で形成されており、それぞれが推進波5波+修正波3波で形成されることになり、つまり、5波・3波・5波・3波・5波の合計21波で高値を形成します。
これらの波動の数(1・3・5・8・13・21~)がフィボナッチ数列に支配されていることは非常に重要なポイントであり、チャート分析の際に役立つことになります。
修正波は、エリオット波動においてトレンド方向に進む推進波の動きを調整する役割となり、3本の波(a波、b波、c波)で形成されます。
この修正波も推進波同様に、3波がそれぞれ5波・3波・5波の13波で形成されており、フィボナッチ数列に支配されています。
エリオット波動が、相場分析の上で有効に利用されるためには、以下の3原則を満たしている必要があります。
上昇トレンド第1波の安値を第2波が下回ると、その時点で上昇トレンドは終了となります。
株式投資の世界では、プロは第1波で人知れず株を買い集め、第3波でセミプロなどの事情通が上昇相場を確定させ、第5波で一般投資家が飛びつき相場が終了するといわれます。
まさに、大小さまざまな「バブルの物語」が繰り返されるわけです。
また、デリバティブ全盛の最近の相場では、第5波で大きな投げ売り(買戻し)が出ることが多く、第5波が最も長くなることも多くなっています。
エリオット波動では、第5波の高値での利食いを目指しますが、ここで重要なのが第4波で、第1波の高値を下回らないことが重要となります。
第1波の高値を下回るようであれば、ここはエグジットポイントとなり、損切り含めた多くの売り物が出てくることになりエリオット波動は成立しなくなります。
トレーディングの世界では、相場とはほとんどの時間はレンジ相場(保ち合い相場)であり、そこから発生するトレンドを狙うのが有効(トレンドフォロー)であるといわれることが多くあります。
多くのトレンドフォロー派のトレーダーが、この方法で勝利するわけですが、正確に言うと、永遠に続くレンジ相場は存在しませんので、エリオット波動から見ると上昇(下降)トレンドの調整局面がレンジ相場と考えられます。
カウント(数え方)があっていることが大前提となりますが、エリオット波動の調整期間(修正波)をマスターすることで、レンジ相場での売買エントリーポイントを知ることができます。
第2波の調整期間が終了すると、推進3波動目で第1波の高値を抜けて行くことになります。
ここは買いのエントリーポイントとなり、前述のように最も多くの投資家が第3波を狙って出動してくるため、値幅を取りやすいポイントともなります。
ここでのエントリーポイントは2つあります。
まずは、第1の高値を抜くポイントで、損切りポイントでもあるため短時間での値幅も狙える効果的なポイントで多くのトレンドフォロー派がエントリーしてきます。
次に、第2波での調整期間でのエントリーで、逆張りとなりますが、強いサポートラインが存在する場合などには狙い目となります。
第3波同様に高値を形成する第5波を狙ったトレード手法も有効です。
ただし、すでに第1波、第3波で含み益を有する投資家が虎視眈々と利確ポイントを狙っているということも忘れてはなりません。
第5波で高値を形成後には一気に売り物が出てくることも考えられ、第3波を狙ったトレード手法よりもリスクは高くなり、中上級者向けのトレード手法となります。
C波を狙ったトレード手法とは、推進5波で最高値を形成後、修正(下落)b波の戻りを売ってC波の大きな下落を狙う手法です。
高値形成後の戻り売り手法となりますが、まだ上昇が終わっていないと考える押し目買いが多く入りますので、C波での投げ売りで大きく利幅を狙える手法でもあります。
チャートを見てみましょう。
上のチャートは、ビットコインが2020年初頭から上昇相場を形成した際の日足チャートです。
2019年12月に70万円の安値を付けたところから推進第1波がスタートし、2020年2月13日に推進第5波で115万円台の年初来高値を形成しています。
ここから修正波がスタートし、a波で91万円台まで下落し、戻りのb波で98万円弱万で戻すものの、このb波は6日間ほどの短期間で7日目にa波の安値91万円を割り込んで急落となりC波が形成されました。
3月のコロンショックの影響を受けて暴落となりましたが、いずれにせよ大きな利幅を狙えるトレードでした。
このチャートで重要なのは、2月13日に付けた115万円の高値が下落してくる重要トレンドライン(レジスタンスライン)に抑えられてしまったというポイントです。
このトレンドラインは、2017年12月のビットコイン史上最高値からの重要なトレンドラインであり、ここに高値が抑えられたことで、多くの投資家はビットコインの目先の動きに弱気派が増え、b波も短期間のうちに終了しています。
このように、推進5波の高値がレジスタンスラインなどに抑えられた場合には、非常に有効なトレード手法となります。
エリオット波動とは、相場の現在地を知るにに非常に有効であり、エントリーポイントも的確に示してくれます。
ただし、よほどの熟練トレーダーでもない限りは、なかなか正確に波動を数えられないという問題があり、初心者には、考え方としては有効だけれでも実戦での利用は難しいテクニカル分析となります。
ところが、誰でも簡単に無料でダウンロードして、エリオット波動をカウントしてくれるインジケーターがあります。
そのインジケーターとは、皆さんよくご存じの「MT4」にデフォルトで入っているZigzagです。
MT4 では、Zigzagを利用することで簡単にエリオット波動を表示することができます。これを利用することで、相場の流れや、エントリー・利確のポイントを的確に知ることができます。
Zigzagの設定方法は簡単です。
MT4 の上のタグの「挿入」~「インジケーター」~「カスタム」からZigzagを選択したらOKです。
下のようなエリオット波動が簡単に表示されます。
エリオット波動を使った相場解説の際、とりわけ相場が予測通りに動かなかった場合によく使われるのが「エクステンション」です。
エクステンションとは、エリオット波動の波の延長のことで、第5波で終わるはずが、第6波、あるいは第7波と延長して波動が生じることを言います。
このエクステンションの存在が、エリオット波動の理解を難しくしていると感じている人は多いでしょう。
エリオット波動の数え方をさらに難しくするエクステンションですが、このエクステンションがどの波動で出るかによって、その後の相場の特徴をある程度予測することができます。
エクステンションを知ることは、エリオット波動の精度の高い数え方ができるようになります。
エクステンションの存在は、一見エリオット波動の理解を困難なものにしているように見えますが、実は、エクステンションの法則性を知ることで、その後の相場の行方をある程度予測することができます。
エクステンションの法則性とは、通常、エクステンションは推進第3波もしくは第5波で出現します。まれに第1波でもでます。
第1波でエクステンションが出た場合:第3波・第5波はあまり大きな値幅とならない傾向があります。
第3波にエクステンションが出た場合:第5波動目は第1波動の長さに等しくなる、またフィボナッチリトレースメントに従いやすくなる傾向があります。
第3波動がそれほど大きな値幅ではない場合:第5波でエクステンション発生の可能性が高まります。
トレーディングの世界ではよく「第3波を狙え」と言われますが、ここが最も勝率が高く、かつ値幅も狙えるところだからです。
ところが、これが簡単に出来れば皆大儲けということになるのですが、そう簡単には問屋が卸してはくれません。
重要なのは、第1波をどうやって見つけるかということです。
エリオット波動とは、相場の一つの周期を表しますので、新しい相場の周期の始まりが第1波動の起点となります。
ここでは、一つの目安として簡単な第1波動の見つけ方を紹介しておきます。
1. 下落トレンドラインをブレークして新たな相場(トレンド)が発生したポイント
2. 直近の戻り高値をブレークしたポイント
3. 120MA(移動平均線)をブレークしたポイント
チャートは、昨年半ばからのビットコインの日足チャートですが、昨年12月に35万円の安値を付けて、その後は少しづつ滑らかな上昇を見せていますが、その段階ではいまだ12月の安値が大底であったと判断するのは難しいところでした。
今年のビットコイン上昇相場が始まったのは4月2日の大陽線からといえるでしょうが、この時点で、上記の3つの条件を全てそろえていました。
まず、120日移動平均線を上抜き、次に下落トレンドラインをブレイク、ここで4月2日の大陽線が出るのですが、同時に直近の戻り高値もブレイクしています。
ビットコインは、その後5月末に100万円近くまで上昇し、6月末に150万円まで上昇して高値をつけています。
10月上旬時点でのビットコインは80万円台まで下落していますが、このことは6月末の150万円で上昇5波が完了している可能性が高いことを示しています。
なぜなら、5月末の100万円弱の高値をすでに割り込んであり、ここを第1波とすることはできなくなっているからです。(3原則の波動4のボトムは波動1のトップを下回らないという法則に合わない)
もっというと、7月17日の安値が98万円を付けたところで、6月末の高値が上昇5波動のトップになった(目先の最高値となった)可能性が高くなっていたことになります。
現時点(2019年10月上旬)でエリオット波動分析から後付けで解釈するのは簡単ですが、ビットコインの8月戻り高値である130万円でショートすることができた人は、7月17日の安値が5月末高値を割り込んでいる事実を根拠としているはずです。
エリオット波動を実践で利用する際に強力な武器となるのがフィボナッチ数列です。前述のように、エリオット波動自体もフィボナッチ数列から構成されており、両者を組み合わせることで相場の転換点を予測できます。
エリオット波動を利用した相場解説では、多くのケースで後講釈であり、エリオット波動を利用して相場を予測するといい人はそれほど多くはありません。
その理由は、テクニカル分析としてのエリオット波動は、情報量がそれほど多くはなく、どこが相場の転換点なのかを知ることが難しいからです。
この問題を解決するのが、エリオット波動とフィボナッチリトレースメントの組み合わせで、多くの情報とともに相場の転換点を知らせてくれます。
論より証拠で、実際の相場で見てみましょう。
このチャートは、ビットコインが昨年(2019年)4月2日に大陽線をつけて上昇相場を形成し、6月末に150万円弱の高値をつけ、その後130万円の戻り高値を付けるものの、ここが2番天井となり下落していく、2019年3月後半から7月半ばまでの4時間足のチャートです。
左側の部分が第1波となりますが、4月2日を起点として5月半ばの91万円台を高値としたフィボナッチリトレースを引いています。
第1波の高値から第2波の安値(ボトム:73万円台)はフィボナッチリトレース38.2%となっています。(一番左の黄色い矢印の部分)
第3波は、73万円台のボトムから5月末の98万円のトップまでとなり、ここにフィボナッチリトレースをかけると、第4波の安値が6月5日の80万円台となり、ここはフィボナッチリトレース78.6%に近い水準であったことが分かります。
この6月5日を安値として、6月末の150万円弱まで暴騰するわけですが、その後に急落し7月2日に105万円台まで下落して反発しています。
この105万円台は、第5波動のフィボナッチリトレース61.8%の水準となっています。61.8%から戻す場合には戻しが強いことが多く、7月10日には143万円まで戻し、新値更新するのかという期待を抱かせます。
しかし、ここが戻り高値の限界となりその後は急落し、7月15日に107万円台と再度61.8%水準まで下落しますが、今度は大きく戻すことはなく下落し、フィボナッチリトレース61.8%を割り込んでいくことになります。
これはほんの1例ですが、エリオット波動とフィボナッチリトレースを組み合わせることで非常に役に立つ情報を多く入手することができます。
次に、エリオット波動の5つのトレンド転換型を説明します。特に、三尊型は重要なので実際の相場を使って解説します。
ヘッドアンドショルダー(三尊天井)とは、2つの肩と1つの頭で長時間かけて形成されます。非常に効力の強いパターンとして、多くのトレーダーに利用されています。
チャートは、ドル円の2013年後半から2017年初頭の日足チャートです。
アベノミクスで未曾有の金融緩和が実施され、2015年6月5日に125円台まで上昇している相場ですが、ほぼきれいな形の三尊天井を形成しています。
この三尊型では、115円台が強力なネックラインとなっており、三尊が破られるまで強力なレジスタンスラインとして機能しますが、2016年2月に入ってこのレジスタンスが破られるや、急落相場となります。
節目の100円前後のところから再度上昇相場となる、いったん115円を抜けて118円台まで上昇するものの急落し、その後は115円台が強力なサポートラインとなって今日に至ります。
今後、仮に円安や日経平均が大きな上昇を見せるのであれば、この115円台を抜けるかどうかは大きなポイントとなりそうです。
抜けた場合には、日経平均株価は暴騰するでしょうね。
これもヘッドアンドショルダーとなりますが、三尊天井が高値をつける相場であるのに対して、逆三尊型は大底(安値)をつける相場に出ます。
ヘッドアンドショルダー(三尊・逆三尊)は、3つの山(2つの肩と1つの頭)で形成されますので強力な指標となりますが、これには少し劣るものの、ダブルトップも相場の転換点を示します。
ダブるというくらいですから、2つの山(1番天井・2番天井)から形成されます。ヘッドアンドショルダー同様にネックラインを切ったところが相場の転換点となります。
ソーサ―とは皿のことで、ラウンディングターン(円形転換)とかボール型とも呼ばれています。
上昇でも下降でも徐々に買いエネルギーが、あるいは売りエネルギーが抜けつつあるようなパターンが窺えます。
ここでできつつある円形湾曲の方向が、次の中・大勢波動の方向を示していると考えられます。
日本の酒田五法のなべ底転換と同じ考え方で、V字転換型ではなくゆっくりと転換していきます。
チャートは、2018年12月に35万円の安値を付けたビットコインですが、12月から4月にかけてソーサー型であったことが分かります。
このラインも、ソーサーと同様に下降相場の終わりを示します。ネックラインを意識してエントリーします。
もちろん、ソーサーもラインも上下が逆の場合もあります。
上昇5波・下降3波からなるエリオット波動は、6つの波動に分類されます。
I波動:単純な上昇・下落の波動パターン。I波動とは、その1本だけに着目した時だけの分類で、一方向だけに動き続ける相場はないため、いずれ必ずV波動になります。
V波動:上昇から下落、下落から上昇への波動パターン。I波動からV波動になります。
Y波動:上下動を繰り返し、その落差がどんどん広がる波動パターン。N波動が連続したものです。
P波動:上下動を繰り返し、その落差がどんどん縮まる波動パターン。Y波動同様にN波動が連続したものです。
N波動:I波動とV波動が合体した波動パターン。すべての波動パターンの基本形となります。
S波動:急激な上昇・下落した時の波動パターン。サポートライン・レジスタンスラインをブレイクした時に発生します。
エリオット波動には値幅観測があり、「このポイントからこのくらいは上昇(下落)するだろう」と予測することができます。
値幅観測には4つの方法があり、それぞれ説明していきます。
N計算:その名の通りN字の形となりますが、最初の上昇から調整、そして次の上昇時のラインの長さは最初の上昇時のラインの長さと同じになるという考え方です。
NY計算:これもNとTの文字が見えるところからNT計算といいますが、最初の上昇時の起点から2波のボトムまでの長さと、3波の上昇時の長さが同じになるという考え方です。
E計算:最初の上昇時のラインの長さと、2波のボトムから3波のトップまでの長さが同じになるという考え方です。
V計算:V計算とは、2波の長さと、2波のボトムから3波のトップまでの長さが同じになるという考え方です。
エリオット波動のよくあるQ&Aです。
初心者のうちは、エリオット波動ってどの時間足で使うのが良いの?という疑問があると思います。
テクニカル分析の教科書の中には、なるべく長い時間足のほうがよいとしているものもありますが、重要なことは数え方をマスターすることで、これさえしっかりマスターしていれば時間軸はさほど気にならなくなるはずです。
事実、短い足でもフィボナッチリトレースなどは驚くほど効果を発揮します。
ちなみに、R・N・Elliotは1時間足の手書きチャートで描いていたという記録が残っています。
ウォルフ波動とは、ニュートンの運動法則に基づいた理論で、運動法則の中でも「作用反作用の法則」から導き出されたもので、押すと押し返され、引っ張ると引っ張り返されることを言います。
一般的には、エリオット波動が相場全体を表す波動理論であるのに対して、ウォルフ波動は相場の一部分を表す波動理論となります。
相場全体を掴む必要がなく、エリオット波動よりも見つけやすいということから、ウォルフ波動を好むトレーダーは多くいます。
例えば、天底を確認できた相場などでは非常に有効に作用し、損少利大のトレードが期待できます。
米国株指標のニューヨークダウなどでお馴染みのダウ理論は、ダウ・ジョーンズによって考案されたものですが、このダウ理論とエリオット波動理論は大変似ています。
実はこれには理由があり、R・N・Elliotはダウ理論を参照してエリオット波動を作成しています。
ダウ理論をさらに進化させようとして作成されたのがエリオット波動と考えるとよいと思われます。
エリオット波動の最も重要なポイントは、波動の数え方であり、その意味からも基礎を徹底してマスターすることをおすすめします。
エリオット波動に関する本は多く出ていますが、本気でエリオット波動でしょうびうしたいと考えている方におすすめのがこの入門書です。
エリオット波動入門(ウィサードブックシリーズ)
少々お高い本であり、翻訳本ですので読みずらい面もありますが、エリオット波動の基礎の部分は100ページほどで書かれていますので、初心者が勉強するのに適しています。
40代男性。大手証券会社、大手通信会社の経営管理を経てセミリタイヤ。職務経験から、広く事業や経済動向、株式・先物・為替市場に精通。長らく株式トレードを行い、暗号通貨は2017年から。仮想通貨だけでなく、ビジネスや世界マーケットを絡めた視点から大人の分析ができるビジネスマン。