COIN TOKYO

  • 2020/01/08
  • 2020/01/07
  • コイン東京編集部

Basset CEO竹井悠人氏にインタビュー!マネロン対策・流出仮想通貨の追跡・リスク検知について

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この度は「リスク検知」「マネロン対策」「サイバー攻撃によって流出した仮想通貨の換金防止」を行うスタートアップBassetのCEO竹井悠人氏にインタビューを行いました。取引所のサイバー攻撃被害状況、漏洩通貨の追跡方法、良いエンジニアの条件など、貴重なお話を聞かせて頂きました。

―コイン東京
Bassetは仮想通貨取引の際の「リスク検知」「マネロン対策」「サイバー攻撃によって流出した仮想通貨の換金防止」を行うスタートアップとのことですが、業界全体ではどのような被害状況にあるのでしょうか。


―竹井氏
我々の集計では、取引所に対するサイバー攻撃被害だけでも2017-2018年の間で1200億円相当にのぼりました。また仮想通貨を用いたマネロン全般に関する他社が出した調査結果だと、2019年前半だけで4600億円相当もの被害があったとのことです。取引所の被害だけでなく、詐欺やマルウェアなど一般消費者への実害を含めると、被害は巨額になります。

―コイン東京
竹井さんはbitFlyerでCISO(最高情報セキュリティ責任者)を務められていましたが「マネロン対策」「流出資金の換金防止」は、取引所内で全て行うのは限界があるのでしょうか。


―竹井氏
どの取引所も多くのリソースを費やしていると思います。ただし、取引所は「お客様に取引してもらうことでお金を稼ぐ」場所ですよね。高速な取引システム、新たな金融商品開発に資金を投じた方が、結果的に収益につながりやすいと言えます。マネロン対策や流出資金の換金防止は「利益には繋がりにくい」ので、守りの投資になりがちです。

Bassetの立ち上げ理由は、取引所が積極的に投資しにくい分野でありながらも、仮想通貨(暗号資産)・ブロックチェーン技術の発展のために間違いなく必要になると思ったからです。コンプライアンスの分野を推し進めるには、取引所内ではなく、外部で集中的に行うべきだと感じました。

―コイン東京
Bassetの取り組みは、「リスク検知」を通して犯罪を未然に防ぐという側面がある一方、「サイバー攻撃事件後」にフォーカスを置いた事業でもあると思います。そもそも取引所でサイバー攻撃を完全に防ぐというのは、現実的にとても困難なのでしょうか。


―竹井氏
難しい質問ですね。bitFlyerに在籍していた際は、CISO(最高情報セキュリティ責任者)として、とても多くのことを考えていました。セキュリティの一番大事な考え方は「どこにどれぐらい投資を行うか」という所だと思っています。

例えば一億円が入った金庫であれば、数十万円ほど金庫そのものや警報機に割くのは問題ありません。しかし一億円を守るために、同じ一億円をかける人はいないですよね。またセキュリティはいたちごっこになるので、常に新しい策を練り続けなければなりません。このような状況で、適切な対策に適切な予算を分配することが肝心です。

一つの取引所内で「取引サービス」「情報セキュリティ」「マネロン対策」を万全に行うのは、決して容易なことではありません。

―コイン東京
仮想通貨に関連する犯罪を防ぐためには『ウォレットアドレス』が対策のカギとなるのでしょうか。


―竹井氏
そうですね。仮想通貨は分散型台帳にこれまでの全ての資金移動が記録されているという特徴があります。ですので、詳しく調べてみると「このアドレスは過去サイバー攻撃によって流出した資金が含まれているか」「このアドレスは過去、犯罪に使われたものではないか」という判断をすることができます。

Bassetによるマネロン防止対策では、そういったアドレスの分析を行えるAPIを提供しています。例えるなら銀行のATMに入金があった時に、そのお金が振り込め詐欺などで得られた、いわゆる汚れたお金かどうかを判断するという感じですね。

もし入金された資金が犯罪収益に結び付くと疑われるものであった場合、取引所の現場に直接アラートを出し、詳細な調査につなげて犯罪被害が広がるのを防ぐという狙いがあります。

―コイン東京
これまでの全ての資金移動が記録されているという特徴は「仮想通貨はマネロンに適していない」という風にも捉えられると思うのですが、竹井さんの考えはいかがでしょうか。


―竹井氏
そうですね。取引所の立場からは、送受金の履歴を分析することができるからこそ、マネロンの傾向を見つけやすいと考えることもできます。ところが一方で仮想通貨の技術が進歩を続けてきたように、犯罪を起こす側も送金履歴を難読化するなどの手段を講じるようになってきています。

―コイン東京
たとえば匿名性の高い仮想通貨などでしょうか。


―竹井氏
そうです。分析できるかどうかはトークンの種類次第です。例えばゼロ知識証明といった数学的に解析が困難な技術が採用されているものに関しては、送り先や送り元などといった情報を得ることはできません。

ただ一方で、匿名性の高い仮想通貨にも他の通貨に“換金するポイント”というものが存在することがほとんどなので、そのタイミングを追いかけるということになると思います。

―コイン東京
仮想通貨業界の発展にはとても大切なプロジェクトですね。ちなみに海外だと「Chainalysis」が有名だと思うのですが、Bassetの強みはどのような点になりますか。


―竹井氏
「世界で通用するコンプライアンス基準にあわせた設計になっていること」が大きく優れているポイントのひとつです。日本では行政が仮想通貨の枠組み作りに非常に積極的で、高いレベルのコンプライアンスが要求されます。金融庁の方々は業界動向について国際的に幅広く情報収集されており、そういった方々が作っている日本の規制は世界を牽引していくほどのパワーがあると思います。我々は、常に日本のコンプライアンス動向を研究しながら、システムの開発に活かしています。

また、取引所の現場を知っている我々だからこそ、取引所が日本の規制に沿ったコンプライアンスプログラムを組む際、より具体的かつ正確な提案などができるのではないかと思います。さらに、収集したデータの正確性、我々が提供するコンプライアンス上の指標もキチンと品質を保つ努力をしています。信頼性を欠いたデータソース、誤ったコンプライアンス基準の解釈が原因で、お客様や取引所をリスクに晒してしまうことがないよう意識しています。

―コイン東京
Bassetは海外進出も狙っているのでしょうか。


―竹井氏
現状は日本の取引所を対象としていますが、今後は海外へと進出したいと考えています。タイムゾーンが近いことから、まずアジア圏を目指し、現場で出てきた疑問や不安に対してリアルタイムで対応していきます。日本とアジア圏で対応の基盤が固まった後は、更なる地域への展開を考えていきたいですね。

―コイン東京
取引所に関係するものとしてFATFトラベルルールの話が最近話題になっていると思います。トラベルルールについて竹井さんはどうお考えでしょうか。


―竹井氏
私は、仮想通貨が犯罪に使われることなく、決済や新たな経済に向けた技術開発など健全な形で使われることを願っています。その上でもしFATF勧告のトラベルルールが仮想通貨業界に対してプラスに働いてくれるのであれば良いと思っています。

もともと仮想通貨の世界においては、プライバシーを尊重する文化が非常に大事にされてきました。それがトラベルルールによって、送金のたびに氏名などの申告が必要になったら、否定的な人が出てくるのは確かに自然なことです。一方、十兆円を超える経済規模まで成長した仮想通貨業界に対して、FATFのような既存の金融機関に向けた規制が適用されていくのは自然なことだと思います。

我々としては、仮想通貨の分野で銀行のような役割を果たすことになる取引所が、一定のルールの中でお金を扱っているということを証明できるよう、支援していきたいと考えています。

―コイン東京
ありがとうございます。
ここからは少し毛色の異なる質問をしていきたいと思います。竹井さんが考える「良いエンジニア」は一体どういった人物なのでしょうか。


―竹井氏
まず必要なのは論理的なコミュニケーション能力だと思います。何故かというと、思考の経路を表現することが非常に重要だからです。私は学生時代、ソフトウェアエンジニアのインターンとしてGoogleで学ぶ機会に恵まれましたが、Googleのエンジニアはみな思考経路を言語化するのが上手かったんですよね。

今悩んでいることは何か、この問題に陥ったのは何故か、今自分はどう考えているのかなどを明確に言うことができていました。これができると周りは助け船を出しやすいのです。

もう一つは、Bassetのバリューでもあるのですが、自分とは異なるカルチャーを受け容れられるかという部分ですね。特に、個人のバックグラウンドに関わらず「フェアでありましょう」や「互いを尊重しましょう」「オープンマインドでありましょう」という、当たり前と言えば当たり前のことです。

こういった文化的な部分を疎かにすると、その組織に所属する全員が単一のカラーになってしまいます。イノベーションというものは同じカラーを持った者同士だと生まれにくいので、だからこそ個人個人が違うカルチャーを受け容れる必要性があるのではないかと思います。

―コイン東京
スタートアップが面白いのは、そういった違う文化の融合によるイノベーションの創造があるからなのかもしれませんね。


―竹井氏
確かにそうかもしれません。ただ、この話はスタートアップに限らず大きな企業でもやった方がいいことだとは思います。同じ考え方の人間で固まってしまうと、どうしても排他的になりがちです。そうなると未来の可能性を自ら閉ざしてしまうことにもなってしまうんですよね。

―コイン東京
お話を伺っていると、竹井さんは「組織をどう作っていくか」という部分にも力を入れていますね。ところで、竹井さんが個人的に注目しているプロジェクトなどはありますか。


―竹井氏
仕事柄、トークンを用いたプロジェクトに注目することが多いですね。ICOは、ご存じのように、様々なプロジェクトが乱立してそれに乗じた詐欺などの不正が多発した結果、多くの国で規制対象となりました。しかしICO自体は、適正なコントロールのもとでは、資金の流動性を高められる良い試みだったと思っています。

その流れで、セキュリティトークン(STO)のことも気になっています。前職でブロックチェーン基盤の開発をしていたとき「世の中の物をブロックチェーンで表す」のは非常に難しい課題だと感じていました。課題は様々ありましたが一つは、お金のような等価交換が可能なものと土地・建物のような等価交換ができないもの、今でいう所のファンジブルトークンとノンファンジブルトークンのような括りですが、以前はその定義がなかったということです。他にも分割可能性、すなわち土地は分割できるけど車は分割できないといった課題がありました。

これらの問題は新たなトークン仕様の登場によって徐々にクリアされており、間違いなく現実への応用に一歩ずつ近づいています。例えば、不動産の権利をどう登記するかという問題は、STOと非常に親和性が高いはずです。

私が以前に講演した話題で、土地・建物の登記でブロックチェーンをどう使えるのかという内容を扱ったことがあります。登記情報システムの維持管理に国の予算が年間どれぐらいかかっているかご存じですか?

―コイン東京
全然見当もつかないです(笑) 1億円ぐらいですか?


―竹井さん
実は年間200億円以上かかっているんです。これがブロックチェーンに置き換われば、だいぶ削減できるはずです。不動産登記は本来ブロックチェーンという技術と親和性が高い分野だと思いますので、日本がブロックチェーン技術の活用を推進していこうとしている今、できればこの分野にもっと目を向けてもらいたいなぁと感じています。

―コイン東京
そんなにかかっているんですね…!
次が最後の質問になるのですが、Bassetと竹井さん個人の今後のビジョンを教えて頂けますか。


―竹井さん
暗号資産(仮想通貨)は経済のあり方を変える力をもったイノベーションであり、まだまだ解明しきれていない技術的な可能性が眠っていると思います。今後、そうした暗号資産の優れた側面が日常生活に融け込む経済になってほしいという想いがBassetのビジョンにはあります。そのために、コンプライアンス分野を通じて健全な経済発展に寄与していくことがミッションです。

そして私個人としては「データの価値」を強く信じています。インターンとして働いていたGoogleでは、世界中のあらゆる情報を検索可能にし、活用できるようにするというミッションステートメントを掲げていました。データの秘める価値は非常に大きいというマインドを持っているんですね。

暗号資産の形をしたお金や権利は、国境を越えて世界中の経済圏と直接繋がっています。それを支えるブロックチェーン上のデータからは、より効率的な社会の姿や、さらなる革新のヒントが見えてくると思っています。私はエンジニアとして、そのようなデータの分析を通して、もっと面白い経済を作っていけるよう活動していきたいと思っています。

―コイン東京
ありがとうございました!

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